バケツラン (コリアンテス cv.)
-Coryanthes (elegantium x boyi)-


ラン科・コリアンテス属

メキシコの熱帯雨林原産。

熱帯雨林の高木に着生。
ランは、美しい花の代表格のように思いますが、この写真のように、奇妙という表現しか当てはまらないのもあるのですね。
受粉して種子を残すための、バケツ型の唇弁だけが発達して、花びらや蕚片は、開花とほとんど同時にしょぼくれてしまいます。

この花の仕組みは、とても巧妙です。
ショベルカーの蝶番(ちょうつがい)のような部分からハチ(ミドリシタバチ)にとって好ましい匂いを出します。ハチにとっては香水のようなものらしく、 それを溜めて、雌への求愛に使うのだそうです。

白い突起から、水が滴っているのがお分かりでしょうか?
この水滴をバケツ型の唇弁に溜めているのです。匂いにつられてきたハチを溺れさせる魂胆です。

雌に渡す香水を集めているうちに、うっかりバケツに落ちたハチは、当然出口を探します。
唇弁からの出口(4枚目の写真右側)には、オシベとメシベが合着した蕊柱(ずいちゅう) という部分(くぼみに見えているクリーム色のもの)が花の基部から下がって出口を塞いでいるので、ミドリシタバチは、 そこを抜け出すとき、背中に花粉を背負わされます。背負った花粉を、次に訪れる花で再度溺れて、メシベに渡すことが出来れば、受粉が成立します。
ハチも命がけ、というかよく懲りずにというか。
5枚目の写真は、ハチが潜り抜ける道を正面から見たところで、クリーム色部分から、花粉を背負わせられるのです。

また、このランは、シリアゲアリと共生していることでも知られています。
ランの、樹上に張り巡らせる根は、アリにとって格好の住みかになり、他の虫たちからランを守ります。 アリの運んでくる土や、その分泌物は、ランにとっては肥料にもなります。また、タネを運ぶ重要な役割も果たしてくれるのです。  

花の役目が終わる頃、バケツの中を覗いてみると、溜まった水の中に小さな虫。きちっとはまっていた蝶番式の柱頭は外れていました。

(名古屋市立東山植物園・水生植物室 )

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